曽根原 登
国立情報学研究所
客員教授・名誉教授
1978年から日本電信電話公社でファクシミリ通信の研究・実用化を手掛け、2000年NTTサイバースペース研究所メディア生成研究部長に就任。2004年に国立情報学研究所教授となり、その後情報社会相関研究主幹を務める。セコム、近鉄、ウェルネット、ソフトバンクなどの民間企業と組んだビッグプロジェクトを担当。NTT社長表彰、情報文化学会賞、国際会議論文賞を受賞。
「変わった遊びをしている友人がいましてね。コンピューターが毎日、五・七・五の言葉を適当に選んで表示する。時にはなんとなく意味がつながるのか、『あ、面白いのができた』なんて喜んでいる。不思議ですよね。コンピューターは確かに俳句をつくれるけど、つくった俳句を面白いと感じることはないでしょう。どれも記号に過ぎないわけですから。面白いと思うのはやはり人間だけですよね」
そう語る曽根原登は、NIIの中枢を担う重鎮であり、1970年代の旧電電公社に在籍していた頃から情報学の研究に取り組み続けてきた。ファクシミリの実用化と国際標準化を成し遂げた。今でこそグーグルなどの米国勢が情報通信のヘゲモニーを握っているが、この時代の情報通信の中心は間違いなく日本だった。「ファクシミリはもともとアメリカの発明ですが、国際的に普及させたのは日本でした。残念ながら、そのうちにインターネットで逆転されてしまいましたが」
評価が分かれる日本のバブル期だが、情報通信分野ではファクシミリが時代を支えたのは間違いないだろう。曽根原はインターネットの黎明期からその後の目まぐるしい進化を見つめ、日本のネット業界をアカデミックな立場からけん引してきた。もちろん、新しい概念やシステムを取り入れることにも積極的で、いいものは率先して社会に生かそうとしている。「最近は地域再生に情報学を生かすことを考えています。自治体、地元の企業、大学が持つ情報を共有することで、疲弊した地方都市のインフラづくりをサポートできるのではないかと」全国の大学とチャネルがあるNIIだからこそ提案できる、スケールと説得力のある街づくりの試みといえる。
また政府が推進するインバウンド観光に、最近知られるようになったIoT(Internet of Things、人の動きやモノの状態を計測できる技術)が有効だという。
「例えば来日した外国人観光客が事前にオプトインしたWi-Fiを使えば、観光地での動きを辿ることができます。国や性別、年齢などの属性が分かると、観光地にとって非常に有益な情報となります。また一つの観光地でも自治体、観光協会、宿泊施設、交通機関それぞれに垣根がありますが、情報で横串につなぐことで、一つのプラットフォームができると思います。情報にはしがらみがないですからね」
曽根原によれば、日本人の技術力は高いものの、起業意識が欠けている点が気になるそうだ。慣習にとらわれず、どんどん新しいことに挑戦してほしい。そしてそのために、自らが携わる情報を積極的に活用してほしいと語る。「いろいろキャリアを重ねてきましたから、これからは特に人が喜ぶ仕事を進んでしていきたいですね」情報の先駆者は、今も私たちの社会の未来を示唆してくれる。