あなたが旅先で見つけたことが、誰かの好奇心をかき立てる。あるいは見知らぬ人の経験があなたの道標となる。日本で学ぶユ イが追求するのは、世界中の人々の知識が集まる、そんな情報のプラットフォームだ。
ユ イ
コンテンツ科学研究系
助教
中国安徽省生まれ。奈良女子大学大学院情報科学博士課程を修了。ニュージャージー工科大学、シンガポール国立大学等を経て、2015年3月から国立情報学研究所に籍を置く。マルチメディアのコンテンツ解析、データマイニングが専門。休日にふたりの子供と遊ぶのが息抜き。
日本のアニメに夢中になっていた子供時代から、ユ イにとって日本は憧れの国だった。2004年に奈良女子大学大学院に留学し、09年に同大学院情報科学博士学位を取得した。その後、アメリカ・ニュージャージー工科大学でリサーチアソシエートとして働き、シンガポール国立大学で研究員、シニア研究員を歴任し、15年3月から国立情報学研究所で助教として仕事を始めた。ふたりの子供を持つ母として、研究と私生活を両立させて、幸せな日々を送っている。
現在手掛けているのは、ウェブ上に蓄積された膨大な画像、映像、音楽のデータを解析し、生活をサポートするインテリジェントシステムとアプリケーションの開発。それは決してエンジニア用ではなく、スマートフォンのアプリのように普通の人々が気軽に使えるものを目指している。開発のきっかけとなったのは日本での自身の体験だった。
「 学生の頃、北海道旅行のときにネットで現地の旬の情報が見つからず困ったことがありました」 ユ イが求めていたのはガイドブックに載っているような観光情報ではなく、現地で開催されているスポット的なイベントや、街で人気のお店などの生きた情報だが、なかなか分からない。
そこで考えたのが、個人のSNSなどのソーシャルメディアとの融合だった。
「 モバイルデバイスの進歩により、誰でもいつでもどこでも、大量のマルチメディアデータを手軽に生成し、共有できるようになりました。ユーザーがネットにアップしたデータで、個人の嗜好や消費傾向を読み取ることができます。日々ネット上に蓄積されるデータから最適な画像や動画、音声を組み合わせ、観光地のマップ上に掲載することで、利用者はより旬の情報を得られるのではないかと考えました」
個人レベルの興味がオンラインで拡散され、やがて新しい情報となる。それを一方通行で終わらせるのではなく、個人の興味に応じた情報が紹介されるシステムを開発した。
「例えば東京のユーザーが、写真共有サイトにピザの写真をアップしたとします。その人がもし名古屋でレストランを探していたら、地元のユーザーから現地で評判のピザ屋を紹介してもらえる仕組みです」
ユ イのチームが手掛けた研究は、ソーシャルメディアを可視化し、マルチメディアのイベントを要約するイベントビルダーというシステムに結実し、Yahoo!が主催するコンテストで見事2位に選ばれた。
興味や関心といった、ユーザー嗜好の理解は、最適な情報を提供するサービスに不可欠。ユ イはその理解を「スマート」と定義する。
「 インテリジェントシステムを利用して、ユーザー個人のニーズをもっとサポートしていきたいですね」 海外からのインターンシップや研究者を受け入れている、世界を巡ってきたコスモポリタンの研究室から、新たな「スマート」なシステムが生まれ、広がっていくだろう。