研究背景・目的
世界は多くの企業や人、政府が連携し、お金や物が流れる複雑で巨大なグローバル経済ネットワークを形成しています(図1)。私は、データ科学(経済ビッグデータ・複雑ネットワーク科学)でグローバル化の構造を解析し、私たちと、地球の裏側にある人権等を無視する「ブラック企業」との経済ネットワークを介した間接的なつながりの検出と対策を進めています。グローバル化した現在、ブラック企業との間接的なつながりは企業リスクの推定において極めて重要です。安易な投資が最終的に爆弾の製造資金になった事例や、安易なM&Aや取引により児童労働問題を抱えた企業を自社の関係先の末端に加えてしまう事例も発生しています。 データ科学と社会科学の連携による国際問題の解決を進めています。
研究内容
全世界の約5000万社が、決算等で報告する親子関係や取引先情報をつなぎ合わせて、企業と重要人物のグローバル経済ネットワークを構築しています。全世界の約500社以上のメディアやNPO法人から、12万社を超える人権や環境等を無視する「ブラック企業」のリストを収集し、このグローバル経済ネットワークと接続することで、私たちの身近な規範的な企業のすぐそば(数社先)に、地球の裏側の遠く離れた「ブラック企業」がいることが分かります。グローバル経済のネットワーク特性を調べると、「ブラック企業」がクラスター(集合体)を形成し、わずかな企業が私たちとの橋渡しをしていることが分かってきました。橋渡しをする企業を介した物流の監視や援助が持続的でクリーンなグローバル経済を構築していくうえで重要です(図2)。
産業応用の可能性
毎年の20カ国・地域(G20)首脳会議において、グローバル経済ネットワークの末端で発生する環境・労働・人権問題に対して、グローバル企業が責任を果たすことが急務(2025年までに児童労働撤廃)であるとの共同声明が出ています。英国では2015年に、「奴隷労働とは末端でもつながってはいけない」という法律が施行されています。欧州を中心に、このような問題は企業リスクであるとの認識が生まれ、問題に取り組んでいる企業への投資(ESG投資)が、2016年時点で全投資の26%(22.9兆円)まで急拡大しています。このうねりは日本企業を巻き込んでおり、複雑化したグローバル経済ネットワークの中でクリーンである証明が必要になっています。私の研究は、「企業がクリーンであることを科学的に証明すること」に応用が可能です。