研究背景・目的
ブロックチェーンを経済活動に応用するために、三層構造モデルを提唱しています。第一層では、貨幣的価値が流通するパブリックチェーンの性質を利用して、不可逆的な記録を共有します。第二層では、シェアリング・エコノミーの「鍵」など、あらゆる「アセット」が流通します。第一層の「金流」と第二層の「商流」は表裏一体の関係にあります。さらに第三層では、経済活動を規律するレギュレーションを実装します。いま、経済活動はかつてないイノベーションを経て、新しい三層構造へと再統合される途上にあります。ブロックチェーンを契機とした経済共同体の再編成における経済と社会の諸問題について、学際的な視点に基づいて探究しています。
研究内容
ブロックチェーンおよび分散台帳技術の国際標準化を推進するISO/TC307の活動に、国内審議委員会アドバイザリーグループの一員として参加しています。2017年4月に第1回の国際会合がシドニーで開催されて以降、東京やダブリンなどで複数回の会合が持たれました。この活動に学識経験者として貢献しています。また、米国電気学会・技術と社会の関わり合い研究会日本チャプター(IEEE-SSITJ)の前チェアとして、ブロックチェーンの社会応用に関する諸論点を考察する各国の研究者と議論を共有しています。さらに、世界各地に点在するブロックチェーンの開発コミュニティと交流を持ち、定期的に開催されるピッチコンテストに参加して交流を深めています。
産業応用の可能性
平成30(2018)年度の特許出願技術動向調査のトピックとして、『仮想通貨・電子マネーによる決済システム』が選定されました。この調査は、今後の進展が予想される技術テーマを対象に、企業の研究開発戦略に資する情報を提供するものです。平成30年度に特許庁に設置されたアドバイザリーボードの委員長に就任し、議論のとりまとめに貢献しました。報告書からは、ブロックチェーンの産業応用に関心を示す国や企業は、決済システムの主導権を握ろうとしていることが見て取れます(図)。これはブロックチェーンが多層構造であることを反映しており、第一層の「金流」と第二層の「商流」が不可分一体であることを示唆しています。