研究背景・目的
サイバネティクスとは通信工学と制御工学、生理学と機械工学などさまざまな分野を横断的に扱うことを目的とする学問で、1948年にノーバート・ウィーナーが提唱した、それほど新しくもない学問領域です。インターネットに代表される分散システムや、その上で動作するサービスを「運用」するためには、ハードウェアやソフトウェアを適切に動作させるだけでなく、時として人間が介在し意思決定を行う必要があります。しかし人間による意思決定には誤謬が混入する蓋然性が高く、人間の介在がサービス品質の低下を招くこともあります。このような問題を、系から人間を除外することなく、運用コスト増大の要因となる人間の介在を最小化することをめざしています。
研究内容
分散システムにおける定量的なレジリエンスの指標を確立することに挑戦しています。分散システムの構成要素の一部が機能停止してもサービスが持続可能である確率を、全ての発生し得る障害から網羅的に算出しようとしています。この指標を使うことで、分散システムの適切な設計、適切な投資を行うことが期待できます。また、特に地理的に広域に分散したシステムにおいては、その末端にある計算機・ネットワーク資源(エッジコンピューティング環境)の運用品質を高めることが困難であるとされています。ここに自律共生を成立させるための適切な値付けの経済的動機づけや、分散システムの地域経済圏を導入することで運用品質の向上と資源投資を促す手法を提案しています。
産業応用の可能性
障害や災害に強い分散システムを適正なコストで構築することが期待できますし、そのような分散システムを要求する顧客へのコンサルティングを補助する道具として利用できるかもしれません。さらにエッジコンピューティングにおける適切な資源投資を行うことが期待でき、ある地域におけるエッジコンピューティング基盤において支配的な地位を確立することに貢献する可能性もあります。またボランティアベースで構築されている広域分散プラットフォーム「Distcloud」を利用することが、あるいは参加することができます。このプラットフォームを用いることで実環境を用いた広域分散環境での検証実験を行うことが可能です。