研究背景・目的
少子高齢化が進んで画像診断の需要が高まる一方、専門医の不足も問題になっています。近年目覚ましい進展をしている AI技術はそうした医療現場を支援できるツールとして期待されています。しかしながら、AI技術を医療の世界で展開するためには、機械に学習させるための大量のデータと正解のセットが必要になり、複数機関の医師の協力と研究開発を得意とする情報系大学の参加が必要になります。この課題を解決するのが筆者の所属する医療ビッグデータ研究センターの活動目的になります。
研究内容
医療ビッグデータ研究センターでは、医学系の学会と全国の情報系大学とを結びつける場を提供しております。具体的には、クラウドでのデータ収集と計算環境(クラウド基盤)を提供し、医学系学会と情報系の大学の対話を促進することで、医療AIの研究開発を推進しています。
この基盤と体制は、2017年度から4年間の日本医療研究開発機構(AMED)の事業に支えられて発足・発展してきました。また、このような基盤と体制により、従来の個別研究では実現できなかったような、大量かつ多種・多様な画像情報や所見文、診断情報を収集・解析できるようになってきました。クラウド基盤については、2021年12月末時点で3億枚を超える画像を収集しています。これに伴い、ストレージを拡張するだけでなく、データベースシステムのアーキテクチャを見直してデータ登録や検索処理の高速化などの対策も行っています。
医療AIの研究開発については、参加している大学から難関カンファレンスに採択されるような研究成果が数多く出ています。筆者を含む NIIのメンバーによる活動では、例えば、脳のMRI画像からのがん転移の検出の研究や眼底画像からの異常検出・緑内障の重症度判定といった研究があります。
今後もこのような研究体制・基盤を維持し発展させられるよう、エコシステムを創ることをめざしています。
産業応用の可能性
これまでに研究開発してきた医療 AIの技術は医学系学会からのニーズに応えたものであり、産業界に適用できそうなものもあります。また、多施設・多種類の大量のデータが蓄積されてきているので、製品の品質評価などに活用できるのではといった議論もあります。これにはデータ提供元の学会の合意が必要なほか、個人情報保護法などの法律やガイドラインなどを守っていく必要があります。こういった法律は情報通信技術の進展などを考慮して数年ごとに改定されており、安全にデータ利用していただける道が拓けるのではとの期待もあります。